連続体力学に現れるシュレーディンガー方程式

はじめに

裳華房「連続体の力学・佐野理著」の弾性体のパートを読んだので、まとめておきたい。 弾性体力学では、弾性体そのものを3次元の境界つきリーマン多様体とみなす。そこに変位の場$X$を考える。$X$は群の作用によることもある([佐野]の中に$S^{1}$作用の例がある。)$X$で計量を無限小変換したものを「歪み」とよび$E$とかく。当然に$E$は2次の対称テンソルになる。歪みとは別に応力$P$を考える。弾性体力学では力が作用する最小単位は点ではなく、面になる。単位面積当たりにかかる力を応力という。三次元空間の三面(yz,zx,xy面)に三方向(x,y,z方向)に力がかかるので、応力も3かける3のテンソルになる。等方性やモーメント保存の条件から、応力テンソルも対称になる。応力テンソルと歪みはフックの法則で結ばれており、4次のテンソルを使って$P_{ij}=C_{ij}^{kl}E_{kl}$とかける。$C_{ij}^{kl}$はバネ定数の一般化であろう。

弾性体力学の問題は、幾何学的な条件などから応力や歪みを計算し、最後に微分方程式を解いて、変位場を求める問題になっている。簡単ではないと感じた。 興味深かったたわみの波について紹介したいと思う。

たわみの波

棒のたわみが引き起こす「たわみの波」は、4階の波動方程式に従う: $$\frac{\partial^{2}z}{\partial t^{2}}+C\frac{\partial^{4}z}{\partial x^{4}}=0$$ ここで$z=z(x)$, $C$は正の定数。梁など建材のたわみに関係する式なので、建築学や工学で重要。弾性体力学の運動方程式であるナヴィエ方程式からは出てこない。定数$C$は正なので与式を因数分解すると1次元のシュレーディンガー方程式と同じ形になる: $$\frac{\partial z}{\partial t}\pm\ i\sqrt{C}\frac{\partial^{2}z}{\partial x^{2}}=0$$ テキストには同じ形になると書いてあるだけで、それ以上のコメントはなかった。たまたま同じ形になっただけであろうか。またテキストでは1次元の場合しか扱っていないが、高次元の場合も見てみたいと思い調べてみた。ランダウ・リフシッツの「弾性理論」に定常波の式が出ている。ネットで公開されている工学部のテキストに幾何学的な解説があった(構造と連続体の力学基礎・岩熊哲夫&小山茂著)。

2次元の場合

厚さ$h$の薄い平板がたわむ問題を考える。平板を薄いユークリッド空間だと思う。変位は$z$方向にはユークリッド計量を保つと仮定すれば、変位場$X$はおおよそ下のようにかける。$$X=(-z\frac{\partial w}{\partial x},-z\frac{\partial w}{\partial y},w)$$ ここに$w=w(x,y)$。 この$X$から$E$そして$P$の式を出す。次に応力のモーメント$ M $を計算する。モーメントから剪断応力$F$が誘導され、直接的にはこの剪断応力が変位$w$を引き起こす仕組みになっている。テキストには無かったが、この手続きを場の計算で書いておくとわかりやすいように思う。 まずモーメントは $$M=\int z{\bf k}\times P dz$$ 剪断応力$F$は モーメントの回転で出てる。

$$ F = \mathrm{rot} M $$

ここでrotはMの行ベクトルに作用する。無理くり運動方程式を立てれば

$$\int \beta\frac{\partial^{2}X}{\partial t^{2}}dV=\int\mathrm{rot}M\ dS=\int\mathrm{div}^{*}F\ dV$$

ここで$\beta$の次元は$kg/m^{2}$、右のイコールはガウスの発散定理による。$div^{*}$は列ベクトルに作用するので$div^{*}rot=0$とはならない。$z$-成分を計算すれば

$$ \beta \frac{\partial^{2} w}{\partial t^{2}} = - \frac{Lambda+2Eta}{ 12 }h^{3} \Delta^{2} w $$

を得る。Lambda, Etaはラメ定数といって弾性体の性質を決定する基本定数。

3次元の場合は4次元の薄板を考えればよい。

弾性体力学で力が作用する最小単位が面になったり、betaの次元がkg/m^{2}になったりするのは高次化とみなせるだろうか?などいろいろ想像力が膨らむ。